おいしさとスポーツ栄養を両立した「For ATHLETE」ギョーザとは
東京 2020 オリンピックの興奮冷めやらぬ 2021 年 8 月、「For ATHLETE」エナジー ギョーザ ® /「For ATHLETE」コンディショニングギョーザ ® の一般販売が開始された。
フィギュアスケートの羽生結弦選手や、柔道の阿部一二三選手、阿部詩選手、バドミントンの奥原希望選手といった日本のトップアスリートとの共同開発によって生まれたこの商品はいかにして誕生したのか。完成に至るまでの秘話を紹介す
る。
「アスリート向けのギョーザ」 が 「冷凍食品」 である理由
そもそも食品の冷凍は、長期保存や衛生管理を容易にする技術である。その特長をベースに「調理工程の簡便化」「味や クオリティの一定化」が付加された冷凍食品は、多忙な現代人を支える食のソリューションとして広く世に普及している。
それでは、なぜアスリート向けのギョーザに冷凍食品の技術が採用されたのか。
アスリートは身体のケアやコンディショニングに常に気を遣う。ただ、専門家による食事のサポートを受けられる機会は限定的であり、普段は自炊や合宿先で提供されるメニューで栄養を摂取している。それゆえ、アスリートの食生活を支える食品には食事環境を問わない「メニューへの取り入れやすさ」が重要であり、その実現には以下のような要素が求められる。
- 一定期間の保存が可能であること
- 衛生的に保存、調理を行えること
- 安定した品質
- 調理工程の簡便性
冷凍食品という手法がアスリート向けという特殊な用途に選ばれた理由は、3 と4を満たすことが大きい。水も油も使わ ずに焼ける家庭用冷凍ギョーザの技術を活用して生まれた「For ATHLETE」ギョーザは、簡便な調理と安定した品質 を実現。栄養面の充実に加えて、アスリート自身やサポートスタッフ、調理スタッフの手間や負担の軽減も期待できる。 これは冷凍食品ならではである。
開発のきっかけは「アスリートが躊躇なく食べられるギョーザを!」
2020 年初頭、味の素冷凍食品株式会社の岩崎裕(当時「製品戦略部」所属)に、ある依頼が舞い込んだ。
「アスリートが躊躇なく食べられて、食事時間を楽しめる。そんなギョーザを作りたい!」
依頼の主は、2003 年に味の素が開始したアスリートのサポート活動「ビクトリープロジェクトR(※アミノ酸の力を使っ たアスリートの健康課題の解決、日本代表ならびにその候補選手へ食や栄養面の支援を行う取り組み)」のリーダーを務 める栗原秀文。
彼は「食欲がなくてもギョーザならテンションが上がって食べられる」という男子フィギュアスケート界のレジェンド・ 羽生結弦選手の声をきっかけに、特別なギョーザ作りに没入。その過程で、9割以上のアスリートがギョーザを好んでい るにも関わらず積極的には口にしないという事実を知った。
「試合前はちょっと・・・」
「好きだけど食べられない」
否定的な答えは「ニオイ」と「脂質」に起因していた。
柔道やレスリングのような相手との距離が近い対人競技においては、中具に含まれるニンニク臭が敬遠されている。
その事実を知り、羽生選手の実家で食されていたニンニク抜きのニラ餃子を試作。試食後の反応も上々で、ニオイの問題は解決を見た。
他方で調理油による脂質増については対応に苦慮した。また、多くのアスリートへ安定的な供給を可能にするべく、製造過程の工業化についても検討が求められていた。個別提供による対応には質・量ともに限界があったからだ。
そういった課題の解決に向け、味の素冷凍食品株式会社に白羽の矢が立てられた。同じ味の素グループに所属し、長年に渡って冷凍ギョーザの開発・販売を続けた実績を買われての依頼である。
すべてが異例 !? 「For ATHLETE」 ギョーザの開発過程
「オリンピックでは選手村の近くに日本選手団の専用施設「JOC G-Road Station」が開設される。そこでこのギョーザ を提供したい」
2020 年 2 月初旬、開発関係者が集まった初めてのミーティングにおいて、プロジェクトの最終目標が示された。ここ から、岩崎を中心とした味の素冷凍食品株式会社新事業開発部にて、商品化に向けた取り組みが本格的に始動する。
すでにベースとなるレシピはあったものの、目標達成に向けては短時間に十分量を提供できる調理の簡便性を実現せねばならなかった。もちろん味や栄養面の質を損なわずに、である。
初めに着手したのは工業化に即したレシピの作成。栗原が試作を重ねてたどり着いた分量と調理工程をベースに、管理栄養士や工業化のスペシャリストからの意見を取り入れ、1週間ほどで目処をつけた。
レシピの完成に続いては原材料や工程の確認が進められた。ミーティングは実際の製造現場に担当者を集めて行われたが、 そのスケジュールはわずか2泊 3 日。短期間で集中的な試行錯誤を重ね、異例のスムーズさで決定に漕ぎつけた。
オリンピックの延期が進歩を生んだ! 新技術の導入に成功!
始動から2カ月。オリンピック本番での提供を目指して駆け足で進められてきた開発に、大きく影響を与える出来事が起こる。
東京大会、オリンピック史上初の開催延期。
「心境は複雑でしたが、延期によって完成度がさらに高まりました!」
当時を振り返り、岩崎はこう断言する。
目的別に 2 種類が用意された「For ATHLETE」ギョーザには、中具だけでなく包んでいる皮にも工夫が施されている。
コンディショニングギョーザ ® には小麦粉由来の皮、エナジーギョーザ ® には独特のモチモチ食感と炭水化物量の多い (小麦粉皮の 1.5 倍)米粉由来の皮というように、期待する効果に適う使い分けがなされているのだ。後者に使われる米
粉由来の皮。これこそが延期の恩恵を受けて実現した新技術である。
そもそも、米粉の皮を使った冷凍ギョーザの開発は以前から試行錯誤が重ねられていた。本商品の製造工程が固まった時点では採用が見送られていたが、延期によって生じた時間で格段に進化。一度は諦めていた米粉由来の皮の実現によって、 「For ATHLETE®」ギョーザの完成度はさらに高まった。
アスリートの向けスペシャルメニューを一般販売へ!
「このギョーザを食べたアスリートが好成績を上げて、話題になれば......」
本計画が動き始めた当初、担当者の間ではこんな会話が交わされていた。「For ATHLETE」ギョーザはあくまでアスリー ト向けの業務用冷凍食品であり、一般への販売は想定されていなかったからだ。しかし、2021 年に入って一般販売に 向けた検討が議題に上り始める。
本来であれば喜ばしいことである。ただ、一般販売に踏み切るにはパッケージデザインの作成から販路開拓に至るまで、 様々な障害をクリアせねばならない。
開発過程にも劣らぬ短期間での課題解決。それに挑むべく再び各部門の担当者が動き、新たに立ち上げる公式 EC サイト 内での限定販売を決めた。
検討開始からわずか半年、「For ATHLETE」ブランド第一号商品のリリースはこうして実現した。
担当者が振り返る、異例ずくめの開発が成功した要因
冷凍食品の技術を活用した商品化。
新たに構築した公式 EC サイトでの販売。
羽生選手との会話に端を発した本商品は、短期間かつ異例の過程をたどって完成した。
開発の中心を担った岩崎はこう振り返る。
「熱意に満ちたメンバーに恵まれ、自信を持って仕事を進められる社内環境は非常にありがたかった。そのお陰で完成度 の高い商品が短期間のうちに実現したし、アスリートにも喜んでもらえました。彼らが本番で結果を出してくれたことは、 自分のことのようにうれしかった。思い返せば、時間がないからこそ気持ちが燃えて、ワクワクしながら取り組んだ日々 でしたね。この先も新たな壁があるかもしれませんが、今回のように試行錯誤しながら良い商品を生み出したいと思って います!」